看護師が開いた小料理店「博多okatteふじコ」が“コミュニティ”機能を果たす理由

博多okatteふじコ_薬院

薬院六つ角近くにある昼から飲める(※)店「博多okatteふじコ(以下、ふじコ)」。2020年10月にオープンして、今秋で2周年を迎えます。「スナック以上小料理屋未満」と書かれた看板に惹かれ、2階の店へと続く階段を登る人も多いよう。

※13時から昼飲みできるのは記事掲載時点では金土日のみ。最新の情報はInstagramで確認を。

日替わりで10種類ほど並ぶメニューの考案・調理、店の経営や公式SNSの運用まで、店に関わるあらゆることを担うのは「食べることが大好き」という店主の藤尾志都子さん。看護師歴20年のキャリアを持つ人でもあります。

他にも、趣味である旅行(国内外)や趣味で演奏する三線、大好きな沖縄音楽、休日に楽しむ福岡市内の食べ歩き、Instagramnoteでの表現活動など、興味関心領域が幅広い藤尾さん。

「博多okatteふじコ」店主 藤尾志都子さん

豊かな感性を持つ女性が営むふじコは「お腹を満たすと心が満たされる」との考えにもとづいて運営されています。藤尾さんの歩んできた道のりも含め、ふじコができるまでと今、未来のお話を聞きました。

救急医療の現場はやりがいに満ちていた

小学生の頃から料理が好きで、実家でも率先して食事作りをしていた藤尾さん。幼いころの夢は料理教室の先生で、高校卒業後は料理・調理系専門学校への進学を希望していたそう。しかし、親から看護師になることを勧められ、看護専門学校に入学して看護の道へ。

「『好きなことは大人になってもできるから』と諭されたのを覚えています。看護師として20年働いてきて、もう十分大人になったから好きな料理を仕事にしてもいいよねと、ふじコをオープンしました」(藤尾さん、以下同)

藤尾さんは看護師の仕事が今でも好きで、自分に合っていると話します。藤尾さんが長く所属していたのは、患者が生死の境を彷徨う救急医療チーム。学んだ内容と現場での看護がリンクするかのように、自らの知見を生かして人の命を支える日々は、常にアドレナリンが出ている感覚で、やりがいに満ちた時間だったといいます。

自分で商いをやりたいと、看護師から飲食店経営者に

ただ、看護師として働いて15年ほど経ったころ、藤尾さんはぼんやりとした危機感を抱き始めます。看護師の仕事は安定していて、自分は恵まれた環境で働けている。ただ、病院という職場は閉鎖的で、外で異業種の友人知人と会うと、自分は世間知らずであり井の中の蛙になっていると感じたといいます。

そのころ、藤尾さんは看護実習生や後輩の育成をしたり、非常勤講師として看護学校に教えに行ったりする、教育関係の仕事も担うようになっていました。看護学校でのさまざまな出会いを機に、指導する立場としてより広い視野を持ちたいと思い、病院を飛び出して看護教員に。

教員として働くなか「このままではいけない」という、より明確な危機意識を持つようになったころ出会ったのが、キングコングの西野亮廣さんが主宰するオンラインサロン(​​西野亮廣エンタメ研究所)でした。もともとキングコングが好きで、西野さんの著作を読んだり発信を見たりすることもあり、毎日アップされるコラムを読みたくてサロンに入ったといいます。

「毎日バスで1時間くらいかけて通勤していたので、西野さんの本やサロンのコラムに限らず、いろいろなビジネス本を読みまくった時期でした。インプットしたことを指導に生かしながら教員の仕事にも励んでいたのですが、自分で何か立ち上げたい気持ちが日ごとに大きくなっていっていました。別の職場でのありがたいオファーもいただいたもののお断りして『飲食店をやろう』と決めて退職したんです」

「私という存在をお酒のアテにしてもらえたら何よりです」

料理好きな藤尾さんは、ホームパーティを開催したり、年末年始に自宅へ人を招いたりすることが頻繁にありました。皆が自分の作ったものを食べてワイワイしている姿を見るのが好きなのだといいます。家でやっていたようなことを「店」として展開し、収益を上げながらコミュニティを作りたい——その想いがふじコ開店につながりました。

2019年12月に日本政策金融公庫 創業センターに出向き、2020年10月に店をオープンするまでは怒涛の日々。融資実行に向けた創業計画書の作成から物件契約、内装・設備工事手配などのインフラ面、店舗サイトやSNSアカウント準備などのソフト面まで、すべてを藤尾さんひとりで進めていきました。その間、知人の飲食店でアルバイトとして働き、飲食店営業を実地で学んでもいます。

「とくに内装は事業者さんにもっと頼れると思っていて、まさかラフも図面も自分で描くことになるとは思っていませんでした(笑)。看護師・看護教員時代に論文を読んでいたことが役に立ち、照明の明るさや椅子の高さも論文内容を参考に、お客さんにとって心地よいものを選べたと思っています」

確かに椅子は長時間座っていてもおしりが痛くならず、疲れることもありません。それもあってか一度の訪問で3時間ほど過ごす人は少なくなく、13時から昼飲みできる日はほぼ通しで滞在していたという常連さんも……! ただ、初見のお客さんは9割以上が、看板を見てひとりでふらっと入ってくる人だといいます。常連さんは多いものの、入るとその場にすっと溶け込みやすい店なのです。

「何度も来てくださるお客さんからは『ここに来るとだらだらできる』『気を遣わなくていい』と言ってもらえます。普段、多くの人が仕事で気を遣っていることと思います。ふじコという空間が心安らぐ、どこかほっと安心できる居場所のひとつになっていればうれしいです。一方で『私(編集注:志都子さん)が観察対象として面白い』と言う方もいます。カウンター内で動き回る私を見てハラハラするそうです(笑)。私という存在をお酒のアテにしてもらえたら何よりです」

出会った人同士でコラボが生まれるコミュニティでありたい

藤尾さんにはふじコをいち小料理店の枠を超えた、コミュニティのような場にしたいと考えています。お客さんとの出会いが自身にとっての創造につながり、新たな世界を開く扉になり、またお客さん同士の出会いも同様にそうあればと考えているのです。

ふじコ開店1周年のお菓子(藤尾さん提供)

すでに「ふじコ内」でコラボレーションは生まれています。たとえば、料理研究家の武陽子さんが主宰するオーダー菓子工房「アトリエ桜坂AZUL(以下、AZUL)」とのコラボもそのひとつです。武さんはふじコの常連さんのひとり。

AZULは大人気フランス菓子ブランドとして知られ、お取り寄せ商品としても有名で、武さんも超多忙な人ですが、ふじコ開店1周年の菓子製作を依頼したところ、喜んで対応してくれたのだとか。お菓子は賞味期限内に限り、店内に飾られています。

ふじコLINEスタンプ(藤尾さん提供)

ふじコの常連さんたちにはいろいろな職業の人がいます。ツナグデザインを屋号に活動するデザイナーさんもそのひとり。ふじコオリジナルのチロルチョコを作ってお店にプレゼントしてくれたところ、藤尾さんがそのデザインを気に入り、データを購入させてほしいと伝えた流れで、ふじコ開店1周年を記念してオリジナル画像を制作してくれました。それがふじコのLINEスタンプになっています。

「明日に悔いを残さないよう、毎日を全力で生きています。私は覚えていなかったのですが、昔の友人から『小料理屋をやりたい、ってときどき言ってたよね』と言われます。そんな願望をふじコとして実現したのも、元気なうちに目標をかなえたかったからだと思います。ですが、ふじコは単に飲食店というだけでなく、私もお客さんたちも共に前進していける場でありたいですし、集う人同士がスキルやパワー、エネルギーなどを交換できる機会を作れたらいいなと願っています」

>>「博多okatteふじコ店主 藤尾志都子さんってこんな人」に続く

取材協力/博多okatteふじコ

Text+Photo/池田園子

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