マフィン専門店が「変わらないこと」を大事にする理由–平尾「マフィン焼けたよー!」

マフィン好きなみなさん、こんにちは。「こんな味、初めて!」と感動するマフィンが平尾で買えるのをご存じでしょうか。

定番品5種類、月替わり品5種類と、常時10種類のマフィンが揃い、毎月訪れても飽きないマフィン専門店「マフィン焼けたよー!」です。

たっぷりの重量感、まんまるとしたトップ、ふわっ・カリッな食感、下まで混ぜ込まれた具材……最後の一口まで楽しめるマフィンだからこそ、2015年11月のオープン後、ファンになる人が続出。

常連さんが多いのも頷ける満足感があります。そんなマフィンの美味しさはもちろんですが、店主の縄田佳子さんの飾らないキャラクターや凛とした姿勢から、元気や活力をもらえる気がしています。

常連さんからいただくご褒美のような瞬間

外に立て掛けられたメニュー看板(2023年7月分)

「お店を8年弱続けてきましたが、私の想像を遥かに超えるくらい、リピーターさんがついてくださって。『私、もう8年も通ってるのね。よく飽きないわよね(笑)』と話す常連さんに、縄田さんの方が『私なら8年も同じ店のお菓子を食べ続けれらない』と冗談交じりに返す、——そんな長い付き合いになったからこそ交わせる言葉が数え切れないくらいありました」(縄田さん、以下同)

8年という歳月の重みを感じるお話は続きます。初めて出会ったとき、お母さんに抱っこされていた赤ちゃんは今や小学生に。ひとりで買い物に来て、そのとき自分が食べたいマフィンを選んで買っていく子の姿を見る縄田さんの目尻は下がります。

ほかにも「はじめてのおつかい」の舞台に使われることもあり、少し離れたところに隠れた親に見守られながら、小学校に上がる前の子どもが買い物に来ることも。そんなときはカウンターをくぐって、マフィンケースの前に回り、その子どもを抱えて、マフィンを全種類見せて好きなものを選んでもらい、一連のお金のやりとりも大人同様に行います。

「出会った頃は高校生だった子が今や社会人になって会社帰りに寄ってくれたり、当時お母さんのお腹の中にいた子が今では自分の意思で好きな味を選べるようになったり。常連さんの成長に触れられるのは喜ばしいことです。逆に、転勤や引越しで会えなくなる常連さんがいるのは寂しいですが、続けることで思いがけないご褒美をいただいているようにも感じます」

そのときどきで食べたいマフィンを選んでほしい

本能に素直に(?)マフィンを選ぶ子どもたちは確かにとても微笑ましい。一方で、「おすすめはなんですか?」と尋ねがちなのが大人です。

どこのお店でも店員さんに「おすすめはなんですか?」と聞く人を見かけませんか。あるいはご自身が聞いている可能性も……。

または、お店のメニューに「おすすめ」「店長イチオシ」など、お店の推しを伝える言葉が書かれていることも。

それに対し縄田さんは「お客さんには自分の頭で考えて、そのときどきで食べたいものを本能や直感をもとに選んでほしい」と語ります。根底には、買ってくれる人に“店の都合”を押しつけたくないという思いがあります。

「自分の食の好みを一番知っているのは店主ではなく、他でもない自分自身です。初めて来られたお客さんの情報を私は何も知りません。好みもアレルギーの有無も、直前に食べた食事の内容も分からない(笑)。だからおすすめを聞かれると答えに困るんですね。食べたものは自分の身体に入っていくわけですから、自分の身体が欲しがるものを選んでほしいと思います」

上段には月替わりメニュー、下段には定番メニューが並ぶ

ただ、どうしても後押しが欲しいお客さんには、マフィンの並ぶ下段には味を想像しやすい定番メニューが、上段には少し個性的な月替わりメニューが並んでいることを伝え、選択のヒントにしてもらっているそう。

食に関する情報が溢れる中、数字や口コミにとらわれず、自分の感覚で選ぶことが苦手になっている現代人。縄田さんの「主体的に選び取ること」を推奨するスタンスは、そんな人々に対する思いやりのようにも感じられます。

“変わらずにいること”を大事に

お話ししていると、縄田さん自身が確固たる軸を持っていて、考えることが好きな人だと分かります。周りからは「いつもそんなこと考えて生きてるの?」「それ考えてどうするの?」と言われるようなことを常に考えているのですが、自身ではそんな時間が心地よいといいます。

オープン時から変わらない、爽やかな印象の外観

店舗運営への考え方にも独自の思想が宿ります。たとえば「“変わらずにいる”を大事にすること」です。長くお店を続けていると「今後の展望や目標」を聞かれやすく、2号店を作るのか、EC販売をするのかなど、新たな取り組みを期待されやすいもの。

「でも、変わらずにいるのって、結構大変なことだと思っているんです」と縄田さん。経営とは川の流れのようで、同じ地点にとどまり続けることは、水面下で脚を必死に動かしていないと不可能であるように、とてもハードな営みではないだろうか——。そう考えるようになったのは起業4年目のときでした。

「ネガティブな変化は文字通り、何もしていなくて起きるものだと思います。一方で、変化せずにいるというのは、実は努力をしていないと成り立ちません。ポジティブな変化は鮭が川を遡るイメージで、相当な馬力が必要です。私は鮭にはなれませんが『あなたのいる場所、川だけど沼みたいで、それくらいじっと動かないよね』くらいの“変化しなさ”を好んでいます」

外観も内観も、モノの置き場所すらもオープン当時から変わりません。お店もモノも大事に使いたいからこそ、どんなに些細な物事でも最初に熟考した上で決めています。

QRコード決済が流行り始めた頃、いろいろな会社から営業があり、複数社のサービスを取り入れた方が利便性が上がるとの声もありましたが、縄田さんが導入したのは1社だけでした。まずは、できるだけ多くのお客さんに利用中のQRコード決済サービスについて尋ねた上で、最も多くのお客さんが使っているものをひとつだけ入れたのです。

変わらずにいるために、縄田さんが重ねてきたさまざまな挑戦を常連さんたちは知っています。たとえば、年間約50種類の月替わりメニューを作り続けていること、お客さんに「朝マフィン」を楽しんでもらうため7時半にオープンする日を設けていたこと、通信「マフィン焼けたと?」を毎月欠かさず書いていること。

平尾のいつもの場所にお店が存在し続ける——その奇跡を作っているのは、小さな変化を積み重ねていく、思想と理想を持った素敵な店主でした。

前編『「最初から最後まで美味しいマフィンを食べてほしい」–平尾「マフィン焼けたよー!」』を読む

取材協力/マフィン焼けたよー!

福岡県福岡市中央区平尾2-14-21
TEL/FAX:092-524-0116

Text+Photo/池田園子

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