「この小さい店は自分にとってのパラダイス」

博多okatteふじコ_薬院

薬院六つ角近くに目を引く看板があります。「スナック以上小料理屋未満」「看護師が開いた店」と書かれた2枚の看板。この言葉たちにふっとつられて階段を上がった先にあるのが「博多okatteふじコ(以下、ふじコ)」です。

福岡では貴重な昼から飲める店(※)であり、日替わりのおかずが10種類近く並びます。店主は看護師として20年働いてきた藤尾志都子さん。

※13時から昼飲みできるのは記事掲載時点では金土日のみ。最新の情報はInstagramで確認を。

今も「副業として看護師をしたい!」と笑顔で語るくらい看護師の仕事を愛する人ですが、「料理が好き、お酒が好き、食べることが好き、食べてくれる人がもっと好き」な人でもあります。

お酒と料理と藤尾さんとの会話に魅せられ、常連になる人も多いふじコ。それでいて一見さんも自然と溶け込める、皆にとって心地よい距離感が存在しているお店です。

そんなふじコを切り盛りする藤尾さんって一体どんな人なのでしょう? 人柄や個性にふれるような質問をいくつかしてみました。 

前編の『看護師が開いた小料理店「博多okatteふじコ」が“コミュニティ”機能を果たす理由』を読む

●子どもの頃、なりたかったものは?

料理教室の先生です。小6の文集にもそう書いていました。小4くらいから晩ごはんを作っていたんです。妹があまり丈夫なほうではなく、母が妹の世話をすることが多かったので、お手伝いのひとつとしてやっていました。

また、私の作った料理を父が「美味しい」と褒めてくれ、それがうれしくて自然と食事を作るようになっていました。中学生のときは自分で弁当を作り、家族の分もときどき作っていたのを覚えています。

藤尾志都子さん。ごはんは土鍋で炊いたものが提供される

●ご自身にとって「幸せ」「成功」とは?

いまが一番幸せです。私(編集注:志都子さん)やお店のことを好きだと言ってくれるお客さんはいますが、その「好き」はお客さんたちのことを大好きな私の方が上回っています(笑)。何よりお客さんのことを思い浮かべることが多いです。

翌日になって、どうしてあの人はあんなことを言ったんだろうと考え込むこともあります。私自身もあとになって「あんなこと言わなければ良かった……」と悶々とすることも。そう考えると、お客さんとの距離は近いのかもしれません。ただ、大好きな人たちが私の城に集まってくれるひとときは、こんな幸せがあっていいのかと思うほど、満ち足りた時間です。

週2回の休みは「外交」と称して、割烹着を脱いで街の飲食店に出かけることにしています。世の中の様子を肌で感じられますし、他店のサービスに触れるのは勉強になります。ひとりでふらっと入った店で他のお客さんと話して仲良くなれば、ふじコの集客にもつながります。

うちの常連さんたちとも数人で飲みに行くことがあります。斜向かいにある「こば酒店」さんに伺うこともありますね。それぞれのお客さんに対し「こば酒店さん美味しいですよ」「ふじコさんて店がうちの向かいにありますよ」と伝え、お互いに自然と送客することも。

成功は「この人は頼しい(たのしい)人生を送っている、と思ってもらえること」でしょうか。私がいう「頼しい」は「経験を重ねてきた自分を頼もしいと思える自信」のことで、それは人から見ると「頼もしい(=信頼)を感じてもらえる自分である」ことだと思います。約1年前のnoteにも「頼しい人生を」というコラムを書いていました。

●ご自身が大事にしている言葉は?

「働かざる者食うべからず」

「ぼろは着てても心は錦(にしき)」(いずれも父の言葉)

両親ともにすごく真面目で性格がいい人です。どちらも両親のことを言っているような言葉。

●ひとりでビジネスをやる醍醐味、一方で抱える大変さは?

最大の自由と裁量権を獲得していること。その代わりに逃げ場もなければ、逃げる暇もないのですが、この小さい店が自分にとってのパラダイスであるのは間違いありません。

一方で、ひとりでやれることには限界があり、日々その思いが強くなっています。1日は24時間しかなく、分身したくてもできません。だからといって、いますぐに人を雇う規模感でもないので、当面はひとりでできる範囲でやっていくつもりです。

●自信を失ったとき、不安になったとき、逆境に陥ったときの対処法は?

落ち込むことは少ないですが、日常的に自己肯定感が低めだと認識しています。人知れず、心配性で繊細さんなタイプです。看護師時代も上司の目には「自信満々に仕事している部下」に映っていたでしょうが、実際はそうでもなかったという(笑)。

何かに失敗したときは、やはり凹んでしばらく引きずります。完全に回復するには、私の場合、その何かを成功させて挽回させるしかありません。たとえば、仕事で何かマイナスなことを引き起こしてしまったら、仕事で取り返す。それはふじコの営業においても同じです。

●時間、お金……これがもっとあれば、ビジネスをもっとこうできるのにといった野望はある?

時間が欲しいです。理想は週10日という単位で、営業5日+休み5日で運営すること。いまの暦では無理ですね(笑)。そうすれば営業日により全力で、よりいいものを提供できるのではないかと思っています。

いまは週休2日ですが、どうも活動的になりがちです。本当は1日はだらだらして「無」になりたいんですが、だらだらできないんです。ついアクティブに動いてしまう(笑)。よりいいものを創造するためには、無になる時間も必要だと考えています。

●今新たに挑戦したいこと、興味津々なテーマは?

たくさんあります。まずは、9月中旬に開催されるジャズフェス「中洲ジャズ2022」に出店すること。全国から有名なジャズアーティストがやってきて、お客さんはビールを飲みながらジャズの演奏を無料で聴けるんです。これまではお客としてフェスに行く側でしたが、せっかく飲食店を経営する立場になったので、食事やお酒を提供する側に回ってみたい。

6月18日にはソーキそばをはじめとする沖縄料理と三線ライブを提供するイベントを開催しました。大好きな沖縄で聴く音楽を好きになり、三線を始めてから民謡から沖縄系ポップスまで、いろいろな場所でライブをしてきたのですが、先日は本当に久しぶりでドキドキ……。1〜2ヶ月に一度はこういうイベントを仕掛けていきたいです。

沖縄音楽ライブイベント時の料理(藤尾さん提供)

スペース貸しも考えています。いまは月火休みなので、週2日は店が有休スペースになっている状態です。立地もいいので、何かを販売したい人に場所を貸せたらと思っています。直近では深夜営業をしてくれる人を募集しています。22〜2時頃までバー営業できることを見越して、暗めな照明も備えているんですよ。

最後に、これは2〜3年後の話ですが、営業日を減らして看護師の仕事も続けたいなと思っています。ふじコが本業で、看護師が副業という状態が理想です。というのも、やっぱり看護師の仕事は好きですし、看護学校で教えるのもとても楽しいので。

●小さな飲食店を立ち上げたい人にアドバイスを。

お客さんにとって心地よい時間と空間を守ること。それこそが店主の役目だと思います。お客さんは限られた時間を割いてわざわざ店に来てくれています。

以前、お客さんたちと、こんな話をしたことがあります。自分が生きているあいだ、健康な状態で「美味しい」と感じて食事できる回数はあと何回だろう? さらに、そのなかで誰かと、大事な人と一緒に食事できる回数はどれくらいだろう? 遠方に住む親と食事できるのは、あと20回くらいかもしれないねと。

そう考えると、お客さんが自分の店で食事してくれる1回は、とても尊い1回だなあと思うのです。「同席させてもらっている」「ありがたい」感覚をおぼえます。店に足を運んでくれるお客さんに対して感謝を忘れることなく、誠実に向き合うことが大切ではないでしょうか。

藤尾志都子/博多okatteふじコ店主。2020年10月にふじコをオープン。看護師歴は20年。文章を書くことや写真を撮ることが好きで、店のInstagramnoteを積極的に更新。

取材協力/博多okatteふじコ

Text+Photo/池田園子

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