「子どもたちのどんな『わたしらしさ』にも、あたたかな居場所を」 – あいむが目指すあたたかな社会

「居場所がない……」と感じて落ち込む——。程度の差はあれど、そんな経験を持つ人は少なくないのではないでしょうか。

自分と誰か、あるいは社会の価値基準と比較して苦しくなったとき、「あなたはそのままでいいんだよ」と信頼できる人から受け入れてもらえたら、今の自分や自分らしさを肯定して、明日からも生きていけるような気がします。

福岡に「誰にでも『居場所』がある社会」を目指して若者たちを支援する任意団体があります。それが2019年に立ち上がった「あいむ」です。団体設立当初は不登校をはじめとする、何らかのハードルを抱えた子どもたちの支援から活動をスタートしたあいむ。

現在はその活動に加え、繁華街で過ごしている10〜20代の若者をアウトリーチ支援する活動を行っています。代表の藤野荘子さん(@sokodoko2)に、団体立ち上げの経緯から活動、今後目指すことについてお話を伺いました。

うつ病からの休職を経て退職し、生きづらさを感じていた過去

立命館アジア太平洋大学(APU)卒業後、金融ベンチャーに就職したものの、うつ病になり2年半ほどで退社した藤野さん。休職期間中は上司や先輩から「マイペースにやればいいよ」と言われていましたが、同期に比べて自分が遅れをとっていることに焦りを感じていたといいます。復職して2〜3ヶ月で勤めた後、続けるのが難しいと感じて退職を決意。

その後も半年ほど東京で転職活動をしていましたが、2018年、地元福岡に戻って家庭教師のアルバイトを始めます。大学時代に家庭教師バイトをしていたこともあり、教える仕事にやり甲斐をおぼえていました。

「家庭教師による週1の授業だけで成績を上げるのは簡単ではありません。いかに生徒自身のモチベーションを上げて、次の授業までの間に自主的に勉強を進めてもらうかが大事で、そこで試されるのがマネジメント力です。

会社員時代に上司から教えてもらったマネジメントの考え方を活かして、生徒の納得する説明ができるようになったのか、生徒のやる気と成績を上げられるようになりました」(藤野さん)

藤野さんが教えていたのは、不登校・ひきこもりの経験を持ちながら、高校卒業や大学合格を目指す生徒たちでした。成果を出せるようになったことで、仕事の面白味は以前にも増して感じていたものの、藤野さんの中には「居場所がない子どもたちのための居場所をつくりたい」との想いが生まれていました。

居場所がない子どもたちのための居場所をつくって

そこで、あいむを設立し、最初に不登校生のための家庭教師事業をスタート。1対1のマンツーマン指導が特徴で、子ども一人ひとりに合わせた学習指導を行うように。現在は不登校生だけでなく、発達障害を持つ生徒も見ています。

「私自身、会社を辞めたときに『社会の中に居場所がなくなった』と心許ない気持ちになったことがあります。家庭教師をしていると、少なくとも“家”という居場所がある子どもたちと向き合いますが、私がアプローチしたい層は違うのかなと気づいたんです」

あいむとして「居場所型家庭教師」の事業を続ける中、藤野さんは「最も居場所がない人はどこだろう?」と考えるようにもなり、2022年、とある団体が行う警固公園での声かけ活動に参加します。その活動を機に、あいむでも若者へのアウトリーチ伴走支援活動を開始しました。

現在は週2〜3日、主に金・土・日の20〜24時頃に警固公園で声かけをしています。警固公園は若者が多く集まるスポットですが、中には居場所のない人も少なくないことで知られています。「アンケートを取りたいのですが」と声かけをする相手は、コロナ下で生まれたTwitterのハッシュタグ「#警固界隈」コミュニティに属するような若者たちが多いといいます。

夜回りの様子(提供:藤野さん)

主な年齢層は15〜18歳で、定時制・通信制高校に通う生徒が大半です。一度話しかけて接点を持てると、今困っていることや悩みを話してもらえることも。

「大人への不信感があるからか、最初は目も合わせてくれなかった子が、関係性ができてくるうちに、私たちと一緒にファミレスに行って話をしてくれるなど、心を開いてくれるようになるケースは多々あります。調査結果から見えてくるのは、不登校の経験があったり、発達障害を抱えていたり、ヤングケアラーだったりと生きづらさを抱えていることです」

一人ひとりの個性が大事にされる、居場所ある社会へ

彼らの話を聞いた後、昼間に開いているフリースペースを持つ団体に紹介したり、行政とつなげたり、子ども食堂に案内したりと、若者一人ひとりを適切な支援の機会へと橋渡しするのが、今のあいむの役割です。

「若者たちの中には困り事をうまく言語化できない子もいます。それぞれが必要とする場所につなげる努力はしていますが、限界もあります。そこで今進めているのが、あいむという組織を拡大していくことです。不定期でレンタルスペースを借りて、私たち自身の手で居場所事業もしています」

警固公園内での声かけでコミュニケーションできる時間は限られています。温かい部屋で温かい飲み物を手に会話ができればと、藤野さんは考えています。現在、組織を大きくしていくにあたり、ボランティアメンバーも随時募集中です(男性が少ないため、男性メンバーも積極的に募集しているそう)。

「子どもたちのどんな『わたしらしさ』にも、あたたかな居場所を」が、あいむの掲げるビジョンです。過去、自身も学校や社会に居場所のなさを感じて、苦しんだ経験を持つ藤野さん。一人ひとりが個性を発揮して、それが認められ、受容される「居場所ある」社会を目指して活動を続けていきます。

後編『「一人ひとりの個性を尊重する社会を目指して」 – 若者支援団体「あいむ」代表 藤野荘子さん

取材協力/あいむ

Text+Photo/池田園子

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