「自分が欲しいものや新しいものを常に作っていたい」 – 白金「RUMBLE LEATHER CRAFT」片岡由位置さん

RUMBLE LEATHER CRAFT_白金

誰もが習得できるわけではない職人的な技術を用いてものづくりをする人に、尊敬の念を抱きます。今回取り上げる白金のレザー製品専門店「RUMBLE LEATHER CRAFT」の店主、片岡由位置さんもそのひとり。

レザーベルトを探し求めていた筆者が店の前を通りかかったある日、「前から気になっていた店。今日こそは入ってみよう」と入店したのをきっかけに、お話を聞かせていただけることになりました。

「接客していいですか?」

レザークラフトをする人たちの憧れ「ニッピー皮漉機」。コバ(革の裁断面)を美しくするために、縁の厚みを均一に漉(す)き落とす機械

2011年にオープンしたRUMBLE LEATHER CRAFT。コンパクトな店内には財布やバッグ、カードケース、ベルトなどの革製品がずらりと並び、革好きの目を楽しませる空間です。店舗奥には工房が併設されるほか、壁際にはミシンや皮漉機が置かれたものづくりの現場でもあります。

片岡さんの第一印象は「寡黙な職人タイプの人」でしたが、そのイメージはうれしくも裏切られることに。「お客さんに合った接客をしたい」と言う片岡さんは、目の前の人に興味を持って、いい塩梅の距離感で物腰柔らかに接してくる人だったのです。

お客さんを見れば、その人が「自分の知りたいことだけ教えてほしい」タイプなのか、「適度に話しかけてほしい」タイプなのか、いまは見分けることができるそう。

「たとえば、この小さい店に10分近く滞在するような方は何かを探されているか、店や商品に興味を持ってくださっていると考えられるので、一声かけます。僕が作業をしているのを見て、いま話しかけるのは悪いなと遠慮される方もいますから『オーダーでもお作りできますよ』と伝えたり、様子を見て『接客していいですか?』と聞いたりすることもあります」

「接客していいですか?」の斬新さに、思わず噴き出してしまいました。初めて聞く問いかけだったからです。ただ、お客さんがOK・NOを選択できて、心地よい接客につながるのは確実です。「接客してください」という言葉が返ってくれば「熱量高めに説明します」と片岡さん。とくに革の種類や違い、特徴についてのお話はとても面白く、革の奥深さに目覚める人もいそうです(こちらは後編でお届けします)。

常に新しいものを作りつづけたい

店内にはいろいろな商品が並んでいますが、お客さんの7〜8割がオーダーするのだとか。ベルトをオーダーした私のように、店舗に並ぶ商品をベースに「ここの色を変えてほしい」「このデザインを変えることはできるか」といったリクエストを通じて、唯一無二の一点を作ってもらうのがオーダー。

このオーダーについて、素敵なエピソードを聞くことができました。

・RUMBLE LEATHER CRAFTで自分の財布をオーダーで作った人が、パートナーへの贈り物として、財布をオーダーで作りたいと再訪する

・オーダーの財布を使っていた夫婦の子どもが、自分のパートナーにオーダーの財布を贈りたい、とやってくる(つまり二代に渡ってRUMBLE LEATHER CRAFTが愛用されている)

RUMBLE LEATHER CRAFTでは、そんな「循環」がいくつも生まれています。とにかくものづくりをしたい、新しいものを作るのが楽しくてたまらないと語る片岡さんにとって、その状況は理想的と言えるのではないでしょうか。

「僕はいわゆる“職人”ではないんです。革製品は製作しつづけていれば、80点のものはすぐ作れるようになります。同じもの、たとえば財布を30年作りつづけて、(たとえば)80点を95点に近づけていく努力をする方こそが職人といえるのではないかと、僕自身は思っているんです。できれば自分もそうありたいけど、80点から85点に進むなかで、習得した技術を別のものにも応用したくなって、同じものばかりは作れない。そのときどきの自分が欲しいものを作りますし、常に何か新しいものを作っていたい性分なんでしょうね」

確かに、来店するたびに新しいものが生まれていると気づくのは筆者だけではないでしょう。この日はワンマイルサンダル(6色、4,840円・税込)が登場していました。土台には「ギョサン」のハイエンドモデルを採用し、ホワイトワックスで仕上げた栃木レザー社製タンニンなめし牛革をオン。経年変化を楽しめる高級感のあるサンダルです。アイデアは2年前からあったものの、今年ついに製品化が実現しました。

情熱を持つ人は応援される

そんな片岡さんは学生時代からものづくりが好きで、神戸芸術工科大学ファッションデザイン学部に進学。服やバッグを作っていましたが、予備校時代に始めたレザークラフトを再開してからは、再び革に魅せられるようになります。新しい革を買うために作品を作って売ることを繰り返していました。卒業制作展では財布やバッグなどの革製品を100個作って販売したというから驚きです。そのころから革の道へ進む運命だったのでしょう。

卒業後は知人から店舗として使用可能な場所を借りて、革製品を作りながら販売をしますが、「ものを売る難しさ」に直面します。小売や販売を一から学んで再スタートしようと、地元福岡に戻りました。革製品を扱う会社で販売のアルバイトをしながら、家で時間を見つけてはものづくりに励む日々。そんななか、この生活をつづけているといつまで経っても店舗は持てないし、販売もできないと気づき、半年で退職します。その後、販売用のWebサイト立ち上げを目標に、Webの基礎知識を学ぶための学校に通いました。26歳のときでした。

質のいい革製品を作りながらも販売に苦戦している。活路を見出そうと自分なりに考えて動いて奮闘している——。そんな片岡さんに救いの手を差し伸べてくれたのは義兄(姉の夫)でした。ここまで作れるのなら実店舗も持った方がいいと勧められ、物件探しから資金の貸付までサポートしてくれたそう。当時はまとまったお金がなく、すぐに店舗を持つ選択肢はなかった片岡さんにとって、願ってもない援助でした。

喜びも文句も全部受け止めたい

今はECショップも運営していますが、売上の大部分は店舗で生まれています。オンラインショップに商品情報を入力する時間があれば、いま作っている商品を別のカラーでも作りたい——それほどにものづくりへの情熱を傾ける片岡さん。同時に、お客さんと顔を合わせてものづくりをしたい想いも持っています。

「オーダー製品であっても、作り手の顔が見える機会は、そう多くはないと思うんです。僕はお客さんと対面で打ち合わせをして、この方はどういうものが好きなんだろうと会話や観察を通して探っていって、提案していくのが楽しいんです。そのあとは全力で良いと思うものを作るだけです」

だからこそ、一見革製品とは関係のない質問も投げかけます。筆者もベルトをオーダーしたときにさまざまな会話をしました。その人のファッションの傾向を聞き出したり、その人自身が纏う雰囲気、センスを見たりして、引き出した個々の情報をもとに作るベルトは、たとえ同じ革を使っていてもまったく別の、世界にひとつだけのベルトに仕上がるのでしょう。選ぶ糸の太さや色、革の幅、バックルの種類……会話を重ねる過程でそれらを組み合わせて、その人らしい品を作り出すのだそう。

「お客さんが作り手と直接話せる場合、仕上がりを気に入ってくれたらすごく喜んでくれるし、気に入らないことがあれば口に出さなくても態度で表してくれるはず。お客さんのそういう反応をダイレクトに触れる環境で仕事をつづけたいですね。そうすることで一つひとつのオーダーに責任を持って取り組めますし、お客さんも作り手の顔を知らないよりも直に知っているほうが、『あの店の人、革の説明をすごく詳しくしてくれたし、タンニンなめしは経年変化を楽しめるって教えてくれたから大事に長く使おう』みたいに思ってくれるんじゃないでしょうか。『RUMBLEの財布、10年使ってます!』と言ってくれる方もいて、それは新商品を買ってもらう機会がないということでもありますが(笑)、そこまで大切に使い込んでくれるのは作り手としてうれしいものです」

後編に続く

取材協力・写真提供/RUMBLE LEATHER CRAFT

Text/池田園子

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