みなさん、マフィンはお好きですか? ずっしりした重さ、まるっとしたトップ、ふわっ・カリッが両方楽しめる食感、“最後の最後”まで混ぜ込まれた具材……。
「はあ、幸せ」。そんなふうに一度食べると虜になるマフィン専門店が平尾にあります。2015年11月にオープンし、小さな子どもから80代の大人まで、多くの常連客から愛される「マフィン焼けたよー!」。
お店では定番マフィン5種類、月替わりマフィン5種類の10種類のマフィンが、やわらかな甘い香りを漂わせてお待ちかね。笑顔で接客してくれるのは、店主の縄田佳子さんです。
起業前は国際交流事業や海外で教師をしていた縄田さん。8月限定のマフィン「かぼちゃスパイスクランベリー」「じゃがいもソーセージチーズ【お食事系】」などのラインナップを見ると、枠へのとらわれなさや発想の豊かさが感じられます。
「『退職後は起業してマフィン屋を開くんだ』と周りに話すと、同僚や仕事関係者がたくさん情報をくれて、商品開発に生かすことができました。世界各国とつながる仕事をしていたこともあり、バラエティに富んだアイデアやネタが自然と集まってきたんです」(縄田さん、以下同)
月替わりがあるから続けられる
それにしても、いったいなぜマフィン? さぞかし運命的な出会いがあったのだろうと、周りは勝手に想像してしまう傾向があるよう。
筆者もそのひとりでしたが、縄田さんは「商品開発しやすいから」と理由を挙げ、「がっかりさせてしまうかもしれませんが、ドラマチックな話はまったくありません」と苦笑します。
何か商いを始めるとき、ほとんどの人は商売が長続きするよう願うもの。そのためには続けるための仕組み作りが欠かせません。商売として回していく資金繰りはもちろんのこと、「店主・顧客双方が飽きない」ことも重要な要素です。
「定番メニューと、毎月変わるメニューの両方を作ろうとは決めていました。定番しかなければ、作る私もお客さんも飽きてしまいます。となると、お菓子屋をするには“新たなメニューを作り続けられること”が欠かせなかったんです。
1年で約50種類、この8年弱で350種類以上の月替わりマフィンを作ってきましたが、同じことはシュークリームやシフォンケーキではできないでしょう。マフィンが(商いをする上で)持続可能なお菓子としてぴたっとはまったんです。季節感を取り入れ、複数の具材を組み合わせるルールを設けて商品開発をしています」
後押しになった「これは売れるよ」
冷静な経営視点から導き出された選択でしたが、同僚に作って渡したマフィンのエピソードも大きな意味を持っていました。
会社員時代、大きなプロジェクトがひと段落したとき、同僚たちがねぎらいの会を開いてくれて、美味しいお酒と料理でもてなされた縄田さん。とても満たされた幸せな時間だったからこそ、翌日職場でお礼を伝えたいと思い、帰宅後のマフィン作りに着手しました。
残業を終えて家に着くと23時過ぎ、なんて日も珍しくないほどに多忙な日々。週末に人が遊びに来るようなときに、お菓子を買いに行く余裕もなかったといいます。
「家で簡単なお菓子を作ってくれていた母の影響もあるのでしょうけど、お菓子作りのハードルは高くないんです。小麦粉と牛乳、卵、砂糖あたりでぱぱっと作ることに慣れていました。その夜は『最速で作れるお菓子はなんだろう?』と考えて、マフィンを作ってみたんです。すると、翌日みんなの反応がやたら良くて『これは売れるよ』とも言われたことが、大きなきっかけにはなりましたね」
最初から最後まで美味しいマフィン
お店に並ぶマフィンの材料やレシピは、当時自宅で作ったマフィンのそれと大きく変わっていません。どこででも手に入るシンプルな素材しか使っておらず、買った当日、遅くても翌日に食べることを推奨しています。
食品添加物を入れて保存期間を延ばすようなことは考えていません。「ベースには私自身が生活圏内で当たり前に手に入れられるものを使っています。身近にないものやどこで買えるの?と思うようなものは使いません」と縄田さん。
聞くと、ベースの材料は近所のスーパーや卵屋さんのような地元の専門店で買えるものばかり。遠方から取り寄せることもなく、福岡県内で買える新鮮なものを選んでいます。
製造時に最も大切にしているのは「最初の一口から最後の一口まで美味しいマフィンを作ること」だと縄田さんは語ります。
上にトッピングはあっても下の方は何も入っていなくて生地だけ、といったマフィンではなく、生地に具材をたっぷり混ぜ込んで、最後の最後まで食感の楽しみや満足感が続くものを作っているのです。
「カリッとしたトップを頬張った後、中心部に入ったクリームに『おっ!』となり、下には別の食感が来る……そんなふうに各所に違う仕掛けを心がけています。自分もそういうマフィンを食べたいですからね」
後編ではお店の運営についてお話を伺います。
後編『マフィン専門店が「変わらないこと」を大事にする理由–平尾「マフィン焼けたよー!」』を読む
取材協力/マフィン焼けたよー!
福岡県福岡市中央区平尾2-14-21
TEL/FAX:092-524-0116
Text+Photo/池田園子