革の楽しさを伝えてくれる作り手 – 白金「RUMBLE LEATHER CRAFT」片岡由位置さん

革ってこんなに面白かったんだ——。いいなと感じて買って使っている革製品はあるけれど、その革がどう作られて、どう変化していくかという話を直接聞いたことはありませんでした。

白金のレザー製品専門店「RUMBLE LEATHER CRAFT」で買い物をして、店主の片岡由位置さんが革について熱量高く話してくれたときに初めて、革という“素材”と向かい合ったような気がします。

いろいろな革の話を聞きましたが、写真の迷彩柄は特に興味深いものでした。数色で構成されるこの迷彩は1色ずつ染色しているそう。

「はじめに緑、次にこげ茶、黒と順に染色して、迷彩柄を表現していると思います。ヌメ革だから全体的に色が変わっていって、使い始めたときとは違う印象になっていくんです。こんな魅力的な迷彩柄の革と出会ったのは初めてでした。この革を使ってバッグや財布、スマホマルチケースなど、いろいろなものを作ってきましたが、これからも使いつづけたい大好きな革のひとつです」

革という素材、それを用いたものづくりを愛し、丁寧にものづくりをつづける片岡さんに、革の選び方や製作に関する質問をいくつかしてみました。

前編の『「自分が欲しいものや新しいものを常に作っていたい」 – 白金「RUMBLE LEATHER CRAFT」片岡由位置さん』を読む

●店でどんな革を取り扱っていますか。それぞれの面白さも教えてください。

主にタンニンなめし革とクロムなめし革を取り扱っています。

タンニンなめしのキーケース

まずタンニンなめしは植物の樹皮から抽出したタンニン(渋)を含んだ溶液に漬け込んで、長いものだと数ヶ月という時間をかけて作ります。大量生産はできず、いま市場に出ている革の2割ほどが100%タンニンなめしといわれています。

動物の血管の跡(血筋線)のような天然素材ならではの特徴もあり、使いつづけるうちにつやが出て、やわらかい風合い、深い色合いへと経年変化していく革です。そうやって育っていくなかで、使う人のなかで愛着が湧いて、100点を超えたお気に入りになることもあると思います。

クロムなめしのバッグ

一方、クロムなめしはクロム化合物を1日程度浸透させて作る革です。短時間に大量生産できるのが特徴で、画一的なきれいさがあります。革の経年変化も少なく、製品が完成した時点で100点の仕上がりになります。

水に濡れてもシミになりにくく、半裁革を1枚買うと9割くらいは使えてロスが少ないところは、工業的に優秀な素材ともいえて、市場に出ている革の大半がクロムなめしや、クロムとタンニン両方を使うコンビなめしです。

「買ったときの状態から見た目や質感が変わらない方がいい」という方はクロムなめし、「使いながら革を育てていきたい」という方にはタンニンなめしが合っていると思います。ぼく自身は革の経年変化を楽しみたいタイプなので、タンニンなめしを使った製品が好きです。

●店を長くつづけていられる理由は何だと思いますか。

自分が気に入った革だけを使って、ものづくりをしているから。好きな革をとにかくたくさんさわりたい、好きな革だけでものづくりをしたい、という一心でつづけてきたんだなと、いま振り返って思います。

純粋に興味を持てる革、質の良い革だけを選んでいると、お客さまにこの革は何が由来で、どういうことに使われて、どんなふうに経年変化していくかを想いを込めて伝えられます。

ブライドルレザーのバッグ

たとえば、ブライドルレザーという革は馬具用に作られていて、油脂成分である蝋(ロウ)で漬けることによって、より頑丈になると同時に、革表面に白い模様が浮かび上がります。でも、使っているうちに白い部分が消えていき、つやへと変化していくんです。

こういう話を聞くのが楽しいと感じてくれた方が、うちの製品を長く使ってくれたり、ギフトにも選んでくれたりと、長くお客さまでいてくれるのだと思います。

●ものづくりでご自身が大事にしていることは?

コバ(革の裁断面)を磨いてなめらかに、美しく仕上げる

岡田武史さんという、元サッカーワールドカップ日本代表監督がいます。「岡ちゃん」の愛称で知られる方です。彼自身は乗り気ではなかったそうですが、任命されて二度も監督を務めて結果を残し、日本を代表する名監督として知られています。

そんな岡田監督がとあるインタビューで「任命された責任があるし、サッカーが好きだから役割を全力でまっとうする。悩んで、考えて、努力して、やり尽くして……それでうまくいかずに責められたら『そんな俺を任命したおまえらが悪いだろ』という」みたいなことを話していました。これがぼくのなかでけっこう響いていて。

自分もオーダーを受けたらベストを尽くします。仕上がりに納得がいかなければやり直します。できることをやり尽くして出したものに納得がいかないと言われたら、岡田監督じゃないけど逆ギレできるくらいまで、品質向上を目指すということです。お客さまからそんなふうに言われる機会も、逆ギレする機会もないんですけどね(笑)。

ただ、一つひとつの製品とそれくらい誠心誠意向き合って、どうすればお客さまが喜んでくれるかを想像しながら作っています。

●店をしていて幸せに感じる瞬間は。

お客さまがうちの製品を大事に使ってくれているのを実感するとき。

前編でもお話ししましたが、家族二代でうちの財布を使ってくれているとか、純粋にうれしいですよね。

原体験は大学卒業後、神戸で店をしていたときに遡ります。初めてオーダーをいただいたときのことはいまもすごく覚えています。「ぼくが作ったものに数万円出してくれる人がいる」と震えましたし、絶対にいいものを作って喜んでもらうんだという気持ちが漲りました。

自分の得意な技術でものづくりをして、店を持ちたい人にメッセージを。

周りに「来年店を出すから、みんな買いに来てね」と明るく宣言しましょう。口に出したからには、目標に向かって走り出すことになりますし、いい意味で後には引けなくなりますから。

いざ店を始めてみると、購入なのか宣伝なのかは分かりませんが、周りが応援してくれるようになります。がんばっている人の周りには、自然と人が集まってくるんです。面白いことに、すごく親しいわけではない友人や知人が買いに来てくれることもあります。自分の宣言や活動って、案外見られているんですよね。

たとえ失敗しても命がなくなることはありません。やってみてうまくいかなければ、お金を貯めてまた挑戦すればいいんです。大事なのは意思表示をすること。「店を出したいけどうまくいくか不安」「失敗したらどうしよう」と思うあまりに、「うまくいくまでは言わないでおこう」とカッコつけるのは良くないです。「できなかったらバカにしてくれていいよ!」と明るく言う方が遥かにいいです。

夜中2時くらいに消えたくなることがある……ものづくりをしている人にそんなエピソードを話すと共感する人は多いと思います。理想と現実に出来上がるものとの差が解離しているとき、全部捨て去ってどこかに行きたい、ってなるんです。

でも、逆にテンションが上がると一晩中、寝るのも忘れて製作に取り組んでしまう。若いころ、Tシャツに印刷する絵を描いては調整し……を夜中に繰り返して、コピー機を使うために自宅とコンビニを20往復くらいしたのを思い出します(笑)。すごく楽しくてアドレナリンが出ていました。

「Tシャツ売れないと飯食えないから買って」と周りにお願いしていたのはいまでも覚えています。そのスタンスは変わらなくて、店を始めてからも新商品を作ったら、SNSやECサイトだけでなく、お店で出会うお客さんや友人知人にも商品の説明をして、いいと思ったら買ってくださいと率直に伝えるようにしています。今夏作った「ワンマイルサンダル(※)」だってそうですよ。

※8月終わりより「ぎょさんネット」で発売開始予定

カッコつけても別にいいことってないんです。カッコよくなくても素直に生きる人のことを、人は応援したいと思うものですから。

取材協力・写真提供/RUMBLE LEATHER CRAFT

Text/池田園子

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