このサイトを楽しんでいるみなさんは、「白金」という場所にどんなイメージをお持ちでしょうか? 東京・白金といえばハイソサエティかつセレブリティなイメージですが、福岡市中央区白金には、なんと福岡県知事が住まう「県知事公社」があります。「県知事も住む街、白金」というとなんだか急にかっちりとしたお堅い印象を受けますが、そんなことはまったくなく、白金はのんびりしていて味わいのあるエリアです。店主の趣味と想いがぎゅっと詰まった、小さな個人店がいい距離感で点在しています。
白金に隣接した高砂エリアに住み約5年。いわばホームタウンであるこのエリアで、今回私がご紹介したいのが「ブックバーひつじが」。平尾方面から薬院方面に抜ける白金のメインストリート、通称「知事公社通り」沿いに建つ、古民家を改装したビルの2階にあるお店です。1階にある飲食店「百雷」さんの入口横に掛かる、ひつじの姿がモコモコと描かれたのれんをくぐると、2階へと上がる階段が出現。店の扉を開けると店主のシモダヨウヘイさんが気さくに出迎えてくれます。
実は私も平尾駅辺りで小さな絵本店「Books cyan」を営んでいる“店主”なのですが、初めてシモダさんに出会ったのは、忘れもしない弊店オープンの日。まだ物件探し中の彼は、本が読めるバーを開きたいと静かにそして熱く語っていました。その後、オープンした「ひつじが」を訪れると、あの日語ってくれた想いがぎゅっと詰まった素敵な空間が完成していて、なんだか自分のことのように嬉しくなったのを覚えています。それから気がつけば、もう3年と付き合いも長くなり、店内を借りて味噌作りのワークショップや人気漫画『深夜食堂』に憧れ、作中に登場するメニューを作るイベントを開催させてもらったこともありました。ああなんて懐の深い、いいお店なんだ「ひつじが」……。
店内には大きな本棚がどっしりと鎮座していて、シモダさんのおすすめやお客さんから寄贈された本、“ひつじ”が登場する物語などが並んでいます。その様子は年々賑やかになっていて、カオスな棚を眺めるのも楽しみのひとつ。今年に入り、DIYした新たな本棚も仲間入りしていて、個人が作った出版物や小さな出版社の書籍を販売する取り組みもスタート。「ひつじが」の一角に書店がオープンしたような遊び心のある空間が誕生していて驚きました。
本棚を一通り楽しみカウンター席に座ると、目の前の棚にはオールドタイプの一升瓶からポップなデザインの焼酎たちがずらり! コロナ禍で営業が限られる中、醸造酒から蒸留酒へラインナップを一新、九州をはじめとした各地のさまざまな焼酎が並んでいます。これほどの種類の焼酎を提供するお店は福岡市内でもとても珍しく、焼酎蔵の方々も「ひつじが」に足を運んでいるのだとか。
「焼酎は割り方や温度、注ぎ方などで風味や飲み口が変わってしまうんです。造り手のみなさんの顔を知っているからこそ、プレッシャーもありますね(笑)。若いお客さんにも焼酎を楽しんでもらえるように、一昨年前にオリジナルの焼酎グラスを作りました。このグラスと焼酎のボトルを写真に撮ってSNSにアップしてくださるお客さんも増えています。焼酎は日本の伝統文化なので、『ひつじが』もその伝統を守るお手伝いができればと思っています」と語るシモダさん。
そう何を隠そう、彼の魅力は物事に真摯に向き合うその真面目さ。いつだってお店やお客さんのこと、そして福岡市内に点在する書店やコーヒー屋さん、出版社やアーティストなどなど、あらゆる人々に想いを寄せ、「ひつじが」を介して点と点を繋いで線にします。そんな彼が営むあたたかで穏やかな空間には、今日もさまざまな人が集い、本を読んだり、談笑したりと思い思いの夜を過ごしているようです。白金にお立ち寄りの際は、ぜひぜひ「ひつじが」に足を運んでみてください。
取材協力/ブックバーひつじが
住所:福岡市中央区白金2-15-3 2階
営業時間:17〜26時頃
定休日:不定休
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Text/ユウミ ハイフィールド
大学在学時から放送作家のアシスタントとして、TV制作現場に従事。2011年に地元福岡に戻り、ファッションフリーマガジンの編集・ライターを経て独立。現在は、愛猫のあおと一緒に福岡市南区市崎で絵本屋「街のちいさな絵本屋さんBooks cyan」を営みながら、いろいろな人や企業を訪ねて取材執筆を行っている。Instagram Twitter