絵本を贈りたいときは平尾の本屋「Books cyan」に行ってみて。初めて見る作品にも出会えます

Books cyan_市崎

心に響く文章と出会える絵本。大人になった今、絵本を読んでも発見があるんだなあ——。絵本の持つ力や魅力に気づかせてくれる本屋が中央区平尾にあります。「Books cyan」という温かみのある、小さな本屋。店主は本を愛するライターのユウミ ハイフィールドさんです。

「絵本を通して“本という選択肢もあるよ”と子どもたちに伝えたい。インターネットの海には正しい情報ばかりがあるとはいえません。何か知りたい、調べたいと思ったら、ネットだけではなく本も手にとってほしいのです。より良い情報の集め方を知って、身につけていくことは、生きていく術につながります」(ユウミさん、以下同)

活字離れが進んでいるといわれて久しい昨今。幼い頃から本という媒体に触れる経験をしてほしい、とユウミさんは考えています。自身も幼少期から本や雑誌など文章を読む習慣があり、その「好き」が高じてライターという職業に就き活躍するユウミさんですが、当然ながら本屋経営は未経験でした。一体なぜ本屋を立ち上げ、どんな想いで経営しているのでしょうか。「はじまり」から遡って詳しく話を聞きました。

店を持つなんて、選択肢にはなかった

ユウミ ハイフィールドさんと看板猫あおくん

2018年10月31日にオープンしたBooks cyan。最初の1年は絵本に限らずさまざまな本を置いていましたが、2019年に「絵本専門の本屋」へとリニューアル。現在は毎週土曜に営業し、子どもを連れた保護者やギフトとして絵本を買い求める人たちが足を運びます。開業から3年半ほど経ち、今では「平尾にある絵本屋」として認知されているBooks cyanですが、誕生は突然でした。

「店をやろう」。ユウミさんがそう思いついたのは2017年7月のこと。福岡市に拠点を置くライターとして市内だけでなく、出張して東京をはじめとする街で、店の取材をすることが多くありました。「儲かる、儲からないはさておき、皆さん本当に楽しそうに店を経営しているんです」。今でも本業・ライターとして多岐に渡る企業や個人の取材を続けるユウミさんは、目をキラキラさせて語ります。

「自分のなかで『店を経営する』なんて、人生の選択肢にはなかったんですけど、イメージを膨らませていくなかで、どんどん楽しくなってきたんです。私が店をやったら、どんな人が来てくれるのかな、どんな人が常連になってくれるのかな、いつもは取材をする側のライターだけど、店として取材を受けるのはどんな感覚なんだろうかとか。あれこれ想像しているうちに、店をやろうと決めていました」

どんなジャンルの店にするか検討していたとき、ちょうど「宣伝会議」のライター養成講座を受けていたユウミさん。下北沢の書店「B&B」を立ち上げた嶋浩一郎さんが講師を務める講座に参加したさいに「本屋さんだ!」とひらめいたといいます。ライターという職業との相性もいいと感じたのだとか。

「本屋の先輩たち」が助けてくれた

「本屋をやろう」。そう決意してからは、聞いている側がびっくりするほどに、とんとん拍子に物事が進んでいきます。お話を聞いていると「運や縁って確かにあるんだなあ」と思わせられるエピソードが続きますが、そのひとつを詳しく紹介します。

ある日の朝、大濠公園で取材を終えたユウミさんは、雨が降ってきたものの傘を持っておらず、大手門の「リンデ カルトナージュ(Linde CARTONNAGE)」に飛び込みます。店主で編集者・ライターの瀬口賢一さんは、2014年に万年筆や手紙用品を扱うリンデをオープンし、ユウミさんは同業者として知り合いで、店を応援していました。

「雨宿りをさせてもらっている間に、瀬口さんと互いの近況を話していて、私が本屋をやりたいんですと言うと、瀬口さんがその場で不動産屋さんを紹介してくれたんです。ちょうど前日、瀬口さんに『2店舗目をやりませんか』と、不動産屋さんが持ちかけていたそうで。オーナーさんが本屋か文具屋に店舗を貸したいと考えていたらしいんです。瀬口さんが『ユウミさん、本気でやりたいならすぐに不動産屋さんとつなぐよ』と早急に動いてくれて。絶妙なタイミングでした」

翌日には不動産屋と、翌々日にはオーナーと面談し、瀬口さんに「本屋をやりたい」と話して1週間以内に店舗が決定。店をやるための蓄えがないまま話が進んでいたものの、賃料は驚くほどリーズナブルで「これからも原稿を書き続ければ払える金額です」とユウミさんはにっこり。2017年秋には内装工事が始まり、2018年2月には「箱」が完成していました。

オープンの10月までは準備期間。なにぶん初めての「店を持つ商い」です。自分の身体ひとつとPC、ネット環境さえあればできるライターとは違い、店で何かを売るには商品の仕入れも必要になります。そのため、公庫からお金を借りるために法人化したり、本の仕入れ先(取次)を探したり、店のコンセプトを決めたり、本屋経営を学んだりと、やることは山積みでした。その過程で人にたくさん助けられたとユウミさんは振り返ります。

「東京出張のたびに、都内の本屋をエリア別に130店ほど収めた『東京 わざわざ行きたい街の本屋さん』を持って、紹介されている本屋に足を運びました。店内をじっくり見て回ったあとは、自分も福岡で本屋をやるんです、教えてくださいと店主にご挨拶。そのときの皆さんが本当に親切で『自分もあなたのように既存の本屋を回って、いろいろ教えてもらったから』と本屋開業・営業に必要な情報を惜しみなく教えてくれたんです。ありがたかったです。私もいつか同じような立場になったら、同じように情報をシェアしようと思えました」

ライターを生業とする本屋店主だからできること

面置きされているので、表紙が気になるものを手に取るのも◎

オープンから1年経って絵本店に舵を切ってからは、「こんな絵本、初めて見た!」とお客さんを驚かせることもしばしば。「これはアートでは?」と思えるような、斬新なクリエイティブが面白い海外作品も充実しているのは、ユウミさんが子どもたちに「他の国の文化や習慣も知ってほしい」と考えているからだとか。もちろん定番やベストセラーも置いて、絵本を買う大人が慣れ親しんでいる作品と見たことのない作品との全体的なバランスに気を配っています。

卸先は主に「子どもの文化普及協会」という本の専門卸会社。そこで自分用に1冊買っていいなと思う作品をBooks cyanに置く用として発注しています。店主であるユウミさんのフィルターを通した作品がセレクトされているのは、お客さんにとっても「ここに行けば確かな絵本に出会える」という安心感につながりそうです。このほか、お客さんからリクエストされた絵本も必ず購入し、店に置くようにしているといいます。

絵本と直接関係はありませんが、壁にある縫い目や結び目に着目。温かみのある空間をつくります

最後に、Books cyanの今後の展開についても聞いてみると「オンラインでの作文教室や販売(ECサイト)を始められるよう準備を進めています」とユウミさん。なんと2019年から作文教室開催の構想があり、学習塾で1年アルバイトをして、子ども向けの教室運営を実践的に学んでいたといいます。

「地域によって差がある情報格差をフラットにしていけるといいなと思っています。考えているカリキュラムのひとつが『職業』に関する内容です。子どもたちに将来やりたい仕事を聞いた上で、その職業に就いている方を呼んで話を聞かせてもらい、子どもたちに質問やインタビュー、作文をしてもらうことなどを想定しています。私は教育者ではないので、教育はできなくても、ライターとしてのスキルは生かせます。取材を多くやってきた自分だからこそできるメニューを展開し、子どもたちの読む・書くをサポートし、微力ながら社会の役に立てたらうれしいです」

型にとらわれず、ライターという本業を生かし、新たなチャレンジをするユウミさん。本や文章への愛と、次世代へ「生き抜くスキルを伝えたい」という熱い想いを持つ店主だからこそ、Books cyanにリピーターが多くつくのにも納得です。後編ではユウミさんの人柄や個性に迫るインタビューをお届けします。

>>「Books cyan店主 ユウミ ハイフィールドさんってこんな人」に続く

取材協力/Books cyan

Text+Photo/池田園子

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