「本屋を経営するなんて選択肢はなかったけれど、自分に振り回されるこの人生が幸せ」

Books cyan_市崎

平尾の絵本屋「Books cyan」は定番やベストセラーだけでなく、アート作品のような海外発の絵本も数多く取り揃えています。「こういう子に、こういう本をプレゼントしたい」とリクエストすると、絵本愛あふれる店主が自身の目で吟味した絵本を何冊もセレクトしてくれるのも魅力のひとつ。そんなBooks cyanの店主、ユウミ ハイフィールドさんって一体どんな人なのでしょう? 人柄や個性にふれるような質問をいくつかしてみました。

前編の『絵本を贈りたいときは平尾の本屋「Books cyan」に行ってみて。初めて見る作品にも出会えます』を読む

●子どもの頃、なりたかったものは?

L’Arc-en-Ciel(以下、ラルク)に関わる仕事。小学生の頃からラルクが大好きで、音楽雑誌を読んで情報を得ていました。インタビューを読みながら、私だったらこんな質問をするなあと、脳内でエア取材していました(笑)。ラルクが出演したラジオ番組を録音して文字起こしをしていたことも。当時ライターという職業を把握していたかは覚えていないのですが。

ちなみに、その熱意が見事叶って、大学生のときにADとして、一度だけ現場に携わることができたんです。そんなこともあって、音楽雑誌を出している版元に就職したいなと考えたこともありましたが、やっぱりいつまでも一ファンとしてライブを観ていたいなあと思い、方針転換しました。

●ご自身にとって「幸せ」「成功」とは?

まず「幸せ」ですが、幸せのハードルが低いので、「幸せじゃないな」と感じることはあまりないんです。天気がいいとか、一緒に住んでいる猫の「あおぴ」が今日も相変わらずかわいいなとか、ささやかな幸せを毎日いろいろな瞬間に噛み締めています。

「成功」はあえて定義を持たないようにしています。成功の定義は状況によって変わっていくものですし、「この状態こそが成功」と決めてしまうと、それに引っ張られて今本当にやりたいことをおざなりにしてしまうかもしれないので。

私は変化していく自分に振り回されたいんだと思います(笑)。そもそも、本屋を経営するなんて選択肢は1ミリもなかったくらいですから。常連さんの子どもが来店の度に成長しているのを見て「大きくなったなあ」とか、あおぴを背負ってお店まで歩いていくとか、思いつきで本屋を始めなければ縁がなかったようなことを一つひとつ楽しみながらやっています。

仕事もそれ以外も今できることを全力でやるスタンスなので、周りの人たちが投げかけてくれる新しい選択肢や可能性にワクワクする気持ちを抱えながら飛び込んでいきたいです。

看板猫のあおくんと

●ご自身が大事にしている考え方や言葉は?

“てげてげ”という言葉を大事にしています。“てげてげ”とは鹿児島の方言で、“適度”にという意味です。鹿児島に住む祖母に電話をすると「ユウちゃん、なにごともてげてげでいいんだが」と言ってくれて、その言葉にいつも安心します。

フリーランスで仕事をしていると人に頼ることもできなくて、ついがんばらなきゃと気負いがちですが、がんばり過ぎて気持ちに余裕がないと疲弊したり、心が折れたりすることも多くなると思うので。他の人に対しても“てげてげ”でいいんだよという気持ちで接することができる自分でいたいですね。

●ご自身でビジネスを立ち上げて得た教訓は?

楽しいと思える範囲で、持続可能な取り組み方をすること。オープン当初は立て続けにワークショップを企画・開催していたこともあり、振り返るとちょっと無理をしていました。以前は土日2日ともオープンしていましたが、今は土曜日だけの営業です。誰に頼まれたわけではなく自分で始めた事業なので、自分がやりたくないと思ったら、ビジネスをたたむことだってできてしまう。

でも、私は本屋の閉店が相次ぐ時代に、あえて本屋を始めて、とても小さい店ですが周囲から本屋だと認識してもらっています。この店が潰れると「やっぱり本屋って儲からないから潰れたんだね」と見えてしまう。せっかく開業したからには、長く続く店を目指したいと今は強く思っているんです。

●時間、お金……これがもっとあれば、ビジネスをもっとこうできるのにといった野望はある?

時間と仲間が欲しいです。私の苦手なことや私の頭の中にあるだけで形にできていないことをサポートしてくれる人がいればいいなあと。「あの件、まだですか?」とつついてもらいたい(笑)! どうして「これやりたい」「今度あれやろう」を実行できていないのかというと、ライターとしての仕事を優先的にやっているからです。

クライアントがいる仕事なのでどうしても締め切りがあって、本屋での新たな企画やちょっとしたやりたいことは「落ち着いてからやろう」となってしまう。それでも、これからも本屋は本業との2本柱、つまり「兼業」スタイルでやっていきます。本屋を始めてから、numabooksを主宰する内沼晋太郎さんの『これからの本屋読本』に出会って読んでいると、軸としての職業を持ちながら、本屋は兼業でやるべきだと書かれていて、私のやり方は間違っていなかったなと安心したのを覚えています。

本屋って利益が出づらい商売なんです。例えば1,000円の新刊があると、取次から700〜800円で仕入れて売るんですが、1冊売って利益は200〜300円。ライターとして安定した収益がなければ、本屋をやることはできなかった。そう考えると、いい原稿を書き続けてライター業で利益を出すことが、本屋を続けていくことにつながるんですよね。

●書店に関するビジネスをしたい人にアドバイスを

何か新しいことを始めるにあたっては、関連書籍を読み漁るタイプなので、私の手元には本屋関連本がたくさんあります。本屋を始めたい方から連絡を受けたときは店に来てもらい、参考になりそうな本をご紹介することも。開業に必要な書類を共有したり、税理士や不動産事業者を紹介したりすることもありました。以前、自分が選んだ本をトランクひとつにまとめて運んできた書店開業希望者に「うちの店で並べてみたら?」と「間借り本屋」を展開したこともあります。

2022年秋で丸4年を迎える小さな本屋ですが、これまでにうちにいろいろ聞きにきて、私も少しお手伝いした方2名がそれぞれ本屋をオープンしました。その方たちには「積極的に動いてみて、人や場をつながりを作っていくのがいい」と伝えています。私自身も本屋をやろうと思い立ったとき、いろいろな本屋を訪れてたくさんの店主さんにノウハウを教えてもらったり、本屋経営に大事なことを真摯に教えてもらった経験があります。

自分から行動を起こせばそうやって手を差し伸べてくれる人が、本屋界隈にはたくさんいます。みんな本屋が増えることはうれしいと思っているようです。そんな温かい業界で自分らしい店をやれるのは幸せなことですね。

ユウミ ハイフィールド/大学在学時から放送作家のアシスタントとして、TV制作現場に従事。2011年に地元福岡に戻り、ファッションフリーマガジンの編集・ライターを経て独立。現在は、愛猫のあおと一緒に福岡市南区市崎で絵本屋「街のちいさな絵本屋さんBooks cyan」を営みながら、いろいろな人や企業を訪ねて取材執筆を行っている。Instagram Twitter

取材協力/Books cyan

Text+Photo/池田園子

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