作る人と使う人との架け橋に。心地よいものと出会える暮らしの道具店「ENCONTRAR+」

ENCONTRAR+_白金

衣食住を心地よくアップデートしてくれるアイテムや道具たちを集めたお店が中央区白金にあります。スペイン語で「出会う」「発見する」を意味する「ENCONTRAR(エンコントラル)」に「+」が付け加えられた「ENCONTRAR+」。偶然見つけて気に入ったものを日常生活で使うことで、暮らしに彩りをもたらしてほしい、という想いが込められています。店主の出野麗美さんにお店のことを聞いてみました。

自分らしい販売の形を模索して

2階かつ看板を出していないことから「最初は入りづらいかもしれません」と出野さん。でも、階段の先はワクワクする品物が並びます

ENCONTRAR+がオープンしたのは2018年9月。販売職についていた出野さんは、接客の仕事自体を楽しんでいたものの、いつかは独立したいと考えていました。

「会社に属していると、どうしても数字を追わなくてはなりません。売れ筋商品だけ並べる、在庫を売り切るためにセールをするような売上至上主義のなかにいましたが、そういうことから少し距離を置きたいと思いました。作り手さんを守りたいし、お客さまにもものの魅力や買ったあとの使い方を丁寧に伝えたかったんです。そうなると、ひとりでお店を持って、自分が暮らしていける規模感でビジネスできるのが理想だなあと。経営者としては間違った判断かもしれませんが(笑)」(出野さん、以下同)

1年ほどの準備を経て生まれたENCONTRAR+。白金交差点からすぐの小さなビル2階。階段を上った先にある、大きな窓から明るい光が差し込むスペースは開放感があり、お店のWebサイトに「ちいさなライフスタイルショップ」とあるものの、狭さを感じさせません。

奥の棚には出野さんが地元・熊本にいた頃から馴染みのあった天草陶磁器が並ぶ。天草出身の人気作家、余宮隆さんも有名

店内には出野さんがこれまでの学びや仕事で蓄積してきたことや自身のルーツが詰まっています。たとえば、すべて可動可能という什器は、出野さんと長兄の共同制作品。ディスプレイデザイン専門の学校に通い、インテリアデザインを専攻していた出野さんが描いたイメージやラフをもとに、工務店を経営する長兄が形にしたといいます。

時期や取り扱うものにあわせて什器を自由に動かし、そのときどきでものの魅力がもっともよく伝わるレイアウトを工夫しているのです。「自分の経験すべてを生かして、スタイルのある販売をしたい」と語る出野さん。インテリアデザインや雑貨・家具販売の仕事についていた経験や好きが高じて取得したインテリアコーディネーターの資格や学びが生かされています。

白金まで足を運びたくなるものを置きたい

特殊なガーゼ織りをすることで生まれた「2.5重ガーゼタオル」はSHINTO TOWELのもの。定番品として取り扱う

ENCONTRAR+で取り扱うものは生活と深く関わるものばかり。纏うと心が安らぐような着心地のよい衣服に毎日使いたくなるような食器や調理器具、セルフメンテナンスが楽しくなるようなボディケアアイテムやタオルなどの日用品……定番品と新商品が適度に混ざるラインナップは調和を保っています。

「旅先や出かけた先で『こんなの初めて』というものに出会うことが多いです。それが気になったら作り手さんを調べ、どんな想いを込めて作られたものなのかを深く知るようにしています。そのあとは、いち利用者として購入して日常使いをした上で、使い勝手が良ければ店用に仕入れ、お客さまに使い方を伝えられるよう、プライベートでも愛用し続けています。そんなアイテムはいくつもありますね」

店内をぐるりと見て回ると、ENCONTRAR+に並ぶ商品たちは、どこでも買えるものではありません。世間一般に認知度が高いブランドのものではなく、出野さん自身が使っていいなと実感した、手仕事で作られたものやストーリー性の高いものが集められているのです。「ここに足を運んでもらう意義のあるもの、ここだから買えるものを置いておきたい」と出野さん。

「伝えること」で使い手と作り手をつなげる

ENCONTRAR+ 店主の出野麗美さん

ENCONTRAR+らしさを感じさせる取り扱い品のひとつに、東京のアパレルブランド「yohaku」の服があります。yohakuのWebサイトにはこうあります。

「どこで」「だれが」「どの様に」作っているのか。
商品の背景について知り、その情報を商品と共に
お客さんに届ける事を、心掛けています。

このスタンスはENCONTRAR+および出野さんと非常に近いもの。そんなyohakuのアイテムのなかでもタンクトップは定番品で、定期的に仕入れているといいます。そのほか、ボトムスの取り扱いもあります。

「yohakuさんの商品は東京・蔵前の実店舗のほか、ECでも販売されていて、私もそこから仕入れています。少数精鋭で作っている小さなブランドなので、商品点数も限られていることから、特に少量生産の商品を仕入れるときは、一般のお客さまと私のようなバイヤーとの戦いで、仕入れる側としてはスリルがあります(笑)。シーズン性の高いウェアの仕入れは特に先読みが不可欠となりますが、今ある店頭の商品との兼ね合いも常に考えています。商品だけでなく、さまざまな情報をキャッチアップし、トレンドを追いすぎないこと、仕入れすぎないことも心がけています」

店に並べるものも、並べるタイミングも、お客さんへのストーリーの伝え方も、すべてオーナー自身のフィルターを通した形で、自分らしさを反映できるのがセレクトショップの特徴。「伝えるという行為を通じて、私は作り手さんとお客さまとの間で橋渡しのようなことをしているのだと思います」と出野さんは微笑み、ひとつの興味深いエピソードを話してくれました。

「『鬼おろし』という道具があります。一般的なおろし器と比べて、食材をおろしたあと歯応えが残るのが特徴です。なくても困らないものかもしれませんが、独特のざくざく感を出せるのは鬼おろしで、我が家でとても重宝しているんですと、離乳食作りに苦心されているお客さまに話したら購入してくださいました。その後『毎日のように使っています』という報告をいただいて! ご紹介した商品がお客さまのリクエストにお応えでき、毎日のなくてはならないものとなってくれたことに感動をもらえますし、作り手さんの想いをうまく伝えられたのかもなとうれしくなります」

エンドユーザーの手に渡ったものがどう使われているか、作り手からはなかなか見えないもの。出野さんはお客さんとの対話を通じて、それぞれの使われ方を知っては、商品発注のタイミングで作り手に伝えるといいます。

誰かの言葉があれば、作り手は幸せな気持ちになり、顔の見えぬ利用者とつながりを感じることができるもの。そうやってものづくりの温かな連鎖が生まれる——。ENCONTRAR+は作り手とエンドユーザーとをつなぐ場としてあり続けるのでしょう。

>>「ENCONTRAR+店主 出野麗美さんってこんな人」に続く

取材協力/ENCONTRAR+

Text+Photo/池田園子

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