「絶好のチャンスは今。悩みは抱えた瞬間、チャンスに変わる」

ENCONTRAR+_白金

中央区白金にある暮らしの道具店「ENCONTRAR+(エンコントラル)」。細い階段を上った先にある、手に取るとワクワクする日用雑貨や服、器などが並ぶ空間は、いつも心地よい空気を漂わせています。品物を手に取りながら雑談しやすい、とてもあたたかな雰囲気なのです。そんなENCONTRAR+の店主、出野麗美さんって一体どんな人なのでしょう? 人柄や個性にふれるような質問をいくつかしてみました。

前編の『作る人と使う人との架け橋に。心地よいものと出会える暮らしの道具店「ENCONTRAR+」』を読む

●子どもの頃、なりたかったものは?

小学生の頃、将来の夢は獣医さんでした。当時は他にもなりたい職業がいろいろあって、何にでもなれると思っていましたね。私がやりたいことを否定せず「なんでやりたいの?」と関心を持ってくれて、熱意とやる気があるとわかれば「じゃあ、やってみたら?」と応援してくれた母の影響も大きいかもしれません。恵まれた環境でした。

●今の仕事と出会ったのはいつで、どんなところに魅力を感じた?

これまでいくつも仕事をしてきましたが、一番楽しいと思えたのは販売の仕事でした。関西で個人オーナーが経営するアパレルのセレクトショップに勤めたのが、最初にやった販売で。自分がいいと思ったものを自分の言葉でお客さまに伝えられるのが楽しかったんです。

お客さまがいい反応をしてくれた=お客さまが商品そのものをいいと言ってくれているわけですが、私自身を認めてもらっているような感覚になり、うれしかったんですよね。好きなものを通して人とつながれる、自分がものづくりをする人と買って使う人との媒介になれることも喜びです。

●ご自身でビジネスを立ち上げて得た教訓は?

「ひとりでやれることは少ない」ですね。どんな仕事をしていても、ひとりでできることは限られていて、誰かに助けてもらわないと続けていくのは難しいもの。だから、人への感謝を忘れてはいけないなと。

店を出してこの秋で4年になりますが、うち2年半はコロナ下でした。福岡に旅行で来ていた海外からのお客さまだけでなく、自粛ムードでお客さまが激減した時期があって、新たな出会いがないときは辛かったです。お客さまが再び来てくださるようになり、元気やエネルギーをもらっているなと心から思います。

●ビジネスをする上で大事にしている考えは?

「絶好のチャンスは今」ということ。40代になる前に「ENCONTRAR+」をスタートしました。これがラストチャンスで、二度目はないと思っているくらい、覚悟を持って始めています。だから、怖いな、大丈夫かなと思うこともときにありますが、前に進むしかないんです。

ただ、何か悩みを抱えた瞬間、悩みはチャンスに変わるとも考えています。私は多くの女性と同じように逆境に強く、過去のフォルダは潔く捨て去るタイプで、未来志向でもあります。次の糧になるものを常に探しているんです。そうやってポジティブでいられるのは強みかもしれないし、ポジティブさだけが残っているとも言い変えられるかも(笑)。

●ひとりでビジネスをやる醍醐味は? 

自分がごはんを食べて、生活できるだけの規模感で商いができること。コロナ下でお客さまが減った時期はとても不安でしたが、自分ひとりでしているお店だからこそ、続けることができました。もし人を雇っていたら、お店を閉める決断をしていたかもしれません。

コンパクトにビジネスをできるのはメリットですが、一方で何か起きたときは当然、ひとりで向き合って乗り切るしかありません。人に相談はしないです。弱い人間だから弱みを見せたくないのかも。とはいえ、それくらいの責任は負わないと、と思っています。

●時間、お金……これがもっとあれば、ビジネスをもっとこうできるのにといった野望はある?

私以外のフィルターがもうひとつ欲しいです。スペースと予算には限りがあるので、私のフィルターで判断したものだけが店に並ぶのが現状。私の判断だけでは、作り手の意図もその多くの商品もお客さまの元に届けられていないと思うんです。品揃えをもっと充実させて、フルラインナップを展開した上で、お客さまご自身が自分にぴったりくるものを選んでいただけるのが一番の理想です。

お客さまが気になる品を手にとって質感を知り、衣服なら試着してみる——そうやってお客さまご自身が自分の生活に合った商品を直接選び、私たちご紹介する側もその率直なご意見を伺える場が実店舗のあるべき姿だと思うんです。

●暮らしに関するショップを作りたい人にアドバイスを

自分の生活を楽しむこと。豊かに生きること。自分の暮らしとじっくり向き合うなかで、必要なものとそうでないものが見えてくるものです。たとえば「この調理器、思えば毎日使っているなあ」とか「このザルは使いやすいな」とか日常で気づきが生まれるはず。自分が心から必要だと思うものは、他の人にとっても必要なもので、逆も然りだと思っています。ご自身の生活を存分に味わってみてください。

出野麗美/熊本県出身。白金にある暮らしの道具店「ENCONTRAR+」店主。インテリアデザインや雑貨、家具、衣服などの販売業に従事したあと独立。お客さまとの対話が何よりの大好物。


取材協力/ENCONTRAR+

Text+Photo/池田園子

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