福岡市中央区平尾3丁目。博多水炊き発祥の店とされる「水月」を背にして、高台を登っていくと見えてくる2つの低層ビル。2022年にできたばかりで、カフェやレストランといった飲食やウェブマーケティングのオフィスがテナントとして入居している。
そのテナントの中に、私が生徒として通っているピラティス&エアリアルヨガスタジオがある。名前は「studio RiRi」。2023年11月でオープン1周年を迎える。オーナーの橋口凜さん(23歳)は佐賀県鳥栖市出身。めぐりめぐって回ってきたご縁によって、白金にほど近い平尾にスタジオを構えることになった。
「めぐるね白金」に寄稿する機会を再びいただいた今回は、一生徒としてstudio RiRiや橋口さんの魅力をお伝えする。
22歳で独立、スタジオのオーナーに
「えっ、もう独立してスタジオを持っているの? 22歳でしょ。すごいね」
橋口さんと最初に出会ったのは、彼女のスタジオ向かいにあるカフェ。転職した友人がこのカフェで働き始めたと連絡があり、「お客さん同士の交流会があるのでよかったら来ませんか?」と誘われた。
会には30代・40代の男女が多く参加していたが、その中に「明らかに20代の女の子がいるぞ」と思った私は自己紹介がてら、彼女に声をかけた。彼女が今回の主人公・橋口凜さんだ。
「今月、向かいの建物にピラティスとエアリアルヨガのスタジオをオープンしたんですよ」
ここで私は冒頭のセリフを発する。雇われの店長じゃなくて、自分でスタジオを運営していると知ったから。大学生なら4年生の年にあたる22歳。いったいどんな経歴なのか、改めて本人にインタビュー取材をさせていただいた。
橋口さん:「体を動かす」の原体験はバレエです。姉が通っていた影響を受けて4歳から始めて、面白くて没頭していきました。小学校高学年になってからは、発表会やコンクールに出場するためにレッスン漬けの日々を送っていました。
インストラクターやトレーナーの仕事をしてみたいと思ったのは高校生のとき。通っていたスタジオのオーナー兼インストラクターの女性に憧れるようになって、「オーナーみたいになりたいです! 一緒に働きたいです」と高校時代から直談判していたんです。
これに対し、オーナーは「それなら、ちゃんとした学校に通って勉強しておいで」とアドバイスをもらって、スポーツトレーナー系の専門学校に進みました。専門学校時代にピラティスとマットヨガの資格を取得しました。卒業から半年間はスタジオでアルバイトとして働いて経験を積んだ後、スタジオの社員として働き始めました。
見たことも聞いたこともなかった街・平尾との出会い
インストラクターとしての修業を続ける橋口さんに、運命の出会いが訪れる。
橋口さん:オーナーの知り合いが、平尾に低層階のテナントビルを建設すると知り、オーナーと一緒に案内してもらったんです。まだ建物はなかったんですけど、高台にあって道路に面してなくて「この場所にスタジオを開けたらどんなに素晴らしいだろう」と思いました。
「あの場所にスタジオを開きたいです」
私はオーナーに独立したい旨を伝えました。しかし、オーナーは「今の橋口さんは入社して半年だし、まだまだ出来ないことも多いから、独立はさせられない」と言われました。
この頃はなかなかお客がつかず、悩みました。先輩やオーナーにはリピートのお客さんがたくさんついていたのに、私は1回きりで終わってしまうお客さんが多くて、「何が違うんだろう……?」とずっと考えていました。お客さんのことは大好きだし、この気持ちは誰にも負けていないと思っているのに。
相談の意味も込めてオーナーに後日、私のレッスンを見てもらったんです。すると、「教科書通りのレッスンをやっているだけじゃ、お客さんはつかないよ。お客さんの体調は日によって違うんだし、顔色を見て状態がわかるくらいにならないと、とても独立なんてできないよ」とアドバイスしてくれたんです。
振り返ってみると、お客さんへのヒアリングが全然足りていなかったんです。お客さんと関わるのは大好きと言っているのに、体調や状態を聞くことはほとんどしていなかった。「手首が痛い」と言われたら、「じゃあ、手首を使わないようにレッスンをしよう」くらいにしか考えていなかったんです。
このときから、仕事の在り方を変えました。上司やオーナーのレッスン中の動きやお客さんとの接し方を見て研究し、教科書通りのレッスンからお客さんに合わせたレッスンを考えるようになり、徐々にリピートのお客さんも増えていきました。
入社から1年「今のあなたなら独立しても大丈夫」
インストラクターとしての成長を見せ始めた橋口さんに、急転直下の展開が訪れる。
橋口さん:アドバイスをもらってから半年ほどたった頃、オーナーが「仕事ぶりを見て、今の橋口さんなら、独立という選択をしてもいいと思いました。若いうちに1回はスタジオを持つのも良い経験になるでしょう。独立するか残るか、最後は自分で決めなさい」と言ってくれたんです。
テナント契約の関係で、決断までには1ヶ月の猶予もありませんでした。この年で独立しても大丈夫なのか、本当にひとりでやっていけるのか、考えるうちに不安が出てきました。
でも、あんな素敵な場所でスタジオを開けるチャンスはもうめぐってこないかもしれない。そう考えたら、これはチャンスだという気持ちのほうが圧倒的に強いじゃないか。
私は「独立します」とオーナーに伝え、平尾に開くことを決めました。
インストラクターっぽくなく、自然体を心がけていく
独立して間もなく1年になる橋口さん。今後はどんなスタジオ作りをしていくのか。
橋口さん:来てくださるお客さんにとって心地よい空間、落ち着けて楽しめるスタジオ作りを目指していきたいです。誰もが自然体でいられて、「今日も来て良かったな」と思ってもらえたら最高ですね。逆に「オシャレをしていかないといけないスタジオ」にはしたくなくて、パジャマでフラッと来る感覚でも全然OKです(笑)。
家と会社以外の空間、いわゆるサードプレイスな場所になってくれれば良いと思っています。体の改善も大切ですけど、気持ちの変化も同じくらい大切です。私はバレエをしているときが「何も考えなくていい時間」で、落ち込んだときもバレエをすれば気持ちの切り替えができていました。私のピラティスやヨガのレッスンが、お客さんの気持ちが切り替わるキッカケになればいいと思っています。
新しいレッスン作りにも力を入れていきたいです。来てくださるお客さんひとりひとりに合ったレッスンをして、ひとりでも多くの方が喜んで帰ってくれることが、私にとっての幸せになるんです。
平尾は静かな街という印象で、ガヤガヤしていないところが好きです。ピラティスやヨガをするのに適した環境で、天神周辺のスタジオだと騒音が気になってレッスンに集中するのは難しそうだなと思っていたので、この場所にスタジオを構えることができたのは本当に運が良かったですね。
おわりに
インタビューの最中、ずっと「緊張していました」と話した橋口さん。レッスンをしているときと全く違う柔らかな表情を見せていて、「やはり23歳の女の子なんだな」と改めて感じた。
ピラティス・ヨガのレッスンを受けてみたいけどハードルの高さを感じている人には、うってつけのスタジオなので、ぜひ足を運んでみてほしい。
取材協力/studio RiRi & 橋口凜さん
Text+Photo/木村 公洋