ご近所づきあいというものが希薄になってきましたよね、という話をよく聞きます。確かに僕も東京にいたころは、マンションの両隣りの方にご挨拶するくらい。
子どもができて、ちゃんとした大人にならなければと思ったのか、福岡に越してからは多少は積極的になったつもりです。
というか、仕事や紹介などで出会った方々がご縁なのか、意外とご近所さんが多く、お決まりのお店で会合したりしています。
ご縁とは不思議なものです。
会社でも、会う人会う人、結構な確率で白金周辺のご近所さんが多くて、まさか仕事場でもご近所づきあいが活発になるなんて思いませんでした。
今回は、そんな中で最近会った、素敵なご近所さんを紹介したいと思います。
建築家の古城龍児さん。
もう、名前がかっこいいですよね。しかも職業が建築家とか、憧れちゃいます。
古城さんと最初に会ったのは、福岡市の離島・能古島在住の建築家・水谷元さんにお誘いいただいたBBQでのこと。僕は異業種の方と話をするのが好きなので、そうした場に集まるみなさんからアイデアの源をいただこうと参加していました。
お決まりの名刺交換をしていると、古城さんの事務所がご近所で、じっくりお話を聞かせてください! と、半ば強引に後日事務所を訪ねたのでした。
おじゃましたのは、高砂のビルの一室にある事務所「STUDIO MOUN」。ビルの横はよく通っていましたが、こんなご近所にクリエイターの方がいらっしゃるとはつゆ知らず。取材というよりも、単純に僕の興味でいろいろとお話をうかがいました。
古城さんは、鹿児島県南さつま市出身。大学卒業後、福岡の建築事務所に入り、独立を機に友人と高砂に事務所を構えられました。
「高砂や白金周辺の印象はどうですか?」という質問に「なにもかもちょうどいいです」という答え。
それは自宅からの距離や、おいしいお店が多いところ、仕事関係の方が多くて、また来やすい位置。そして仕事をする上で、静かすぎずうるさすぎないところも気に入っていらっしゃるようでした。
建築家、というとオシャレな印象しかありませんでしたが、仕事内容を聞いてとても地道な作業なんだと感心させられることばかり。
古城さんは、お店などの商業施設の建築デザインが多いそうですが、ただイメージをつくりあげるだけでなく、例えばそのお店の家具や小物にいたる子細な部分まで、こだわっていらっしゃるとのこと。
古城さんとのお話の中で特に刺さった言葉があります。
「お店の方が継続的に楽しみながら営んでもらい、そこに来るお客様にも楽しんでいただきたいですね」
建築家は、自分のデザインを押し付けるのではなく、あくまでクライアントファースト、そしてその満足感をずっと続けられるようにという使命感。
僕もクリエイターの端くれですが、CMや企業自治体の映像制作では、自分がこうしたいよりも、どうすればクライアントが満足するのか、そしてその先にあるお客様がどうすれば満足するのか、そしてどうすれば売り上げや集客が上がるのか、を考えています。
とくに古城さんのような、形として長く残る建築物は、その想いがさらに強いように感じられました。
そして、大事なのは「楽しさ」。デザインするのも楽しくありたい、それがお客様の楽しさにつながると古城さんはおっしゃいます。まさに、クリエイターとしての根幹。
その古城さんの「楽しさ」と「こだわり」が詰まったのが、これまたご近所、平尾「鮨 幸仁」さんのデザイン。お写真を拝見しましたが、いやぁ、もうかっこいい!の一言。
「鮨 幸仁」さんも、お店の大将と綿密に打ち合わせをしながら、ベストなデザインを考えたそうです。
お店の戸を開けると、美しい湾曲した壁のアプローチ。これもデザインだけではなくて、戸を開けた際に入る風が店内に一気に流れ込まないように計算。
アプローチを抜けると一気に店内が広がり、鮨を握る大将と目が合う導線の演出まで考えられています。
大将が鮨を握るカウンターは、やわらかな曲線を描く扇形。この形もこのお店の面積と、大将の仕事のしやすさを考えての計算です。
壁紙は和紙を一から漉いて、そこに波のデザインを。これは扇というワードをヒントに、室町時代の風流な遊び「扇流し」から、その水面の流れをデザインされています。
さらには、この扇のカウンターに合うようにと、椅子までデザイン。3本脚になっていて、お客様が立ったり座ったりする際に、脚が引っかからないように、ここにも工夫が施されています。
そして、お店の案内状まで古城さんがデザイン。こうなると建築家というよりも、トータルコーディネーターという名がふさわしいかもしれません。
「これなにかわかりますか」と持ってきていただいたのは、木の塊。それはお客様が座ったときのカウンターの「縁」にあたる部分でした。
木を組み合わせた際のデザイン、優しいカーブのフォルム。お客様がカウンターに接する面だからこそ、こだわって何度も試作を重ねたそうです。驚いたのは、このカウンターの縁の木を削りだすために「専用の刃物」まで一からつくったとのこと。
古城さん、こだわりの塊です。これだけ考えてくださる建築家の方なら、信頼できますよね。
僕とは全く違った世界で活躍される古城さんのお話は、とても刺激になりました。建物にこうした建築家さんの想いがあふれていると思うと、見方も変わってきますよね。
こうして文章を書いていると、なんだかお寿司が食べたくなりました。「鮨 幸仁」さんへ、まずはランチに……ここでも素敵な出会いがあるかなぁ。いや、必ずある気がします。
取材協力/STUDIO MOUN 一級建築士事務所
代表 古城 龍児
住所 福岡市中央区高砂1-20-3-601
Info 古城さんのこだわりが詰まったお寿司屋さん
鮨 幸仁
住所 福岡市中央区平尾1-8-4
Text/ミノツ ナヲフミ
東京でテレビ番組の演出を経て、長崎ハウステンボスへ転職。H.I.S.体制の元、宣伝とPR面から経営再建と地方創成を行う。2020年より白金の総合プロダクションLAPへ入社。仕事そっちのけで近所のおいしいものばかり探している。その合間にテレビやイベントのプロデューサーや企業コンサルティングなどを行っている、らしい。長崎県佐世保市出身。
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